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水域の食物網構造の解明
<富栄養化による水域生態系の改変>
富栄養化が進行し、湖沼ではアオコ現象や淡水赤潮のように、大型の植物プランクトンが大発生する現象がしばしば見られます。大型植物プランクトンはミジンコにはたべられにくく、底に沈んでいくと考えられています。そのため、大型の植物プランクトンが大発生すると、動物プランクトンや魚は餌不足となり、湖底への沈降量が増加するため底層の嫌気化が進むと懸念されています。
<ミジンコはツボカビがお好き!?>
しかし、大型植物プランクトンを利用できる生物がいます。ツボカビなどの寄生菌類は大きな植物プランクトンを好んで寄生すると考えられています。またツボカビは遊走子として水中を泳ぎますが、実はその遊走子にはコレステロールがたっぷり含まれ、ミジンコのよい餌です。植物プランクトンを直接食べられなくても、ツボカビがいることでミジンコはより成長できるのです
<ツボカビが駆動する物質流Mycoloopの発見!>
大型の植物プランクトンがツボカビに寄生された場合、湖に沈む前にツボカビに細胞質が吸い取られ、そのツボカビが動物プランクトンに食べられるため、大型植物プランクトンは食物網に組み込まれます。この新しい物質経路を菌類学(Mycology)と自分の名前(Maiko)とかけて、Mycoloopと名付けました。Mycoloopが存在するならば、大型の植物プランクトンは迷惑ものではなく、食物網を支える重要な存在になり得ます。また湖底の有機物堆積も減少し、貧酸素化の進行は軽減されるかもしれません。
<第2のMycoloopも!>
湖に入ってくる陸生の花粉をミジンコは捕食・消化しにくいですが、腐食性ツボカビは花粉の中身を効率よく利用します。花粉もツボカビを介してミジンコに利用されるという、第2のMycoloopの存在も明らかになりました。
大型の珪藻をツボカビが消費し、水中に放出されたツボカビの遊走子をミジンコが捕食します。
Mycoloop(菌類連鎖)の模式図 (Kagami et al. 2007)。
主な参考文献・研究資金
Kagami et al. (2014) Mycoloop: chytrids in aquatic food webs. Frontiers in Microbiology 5:166.
主なGrants
科研費 若手研究B 「病原菌の駆動する湖沼物質流の定量化」平成19-21年度(代表 鏡味麻衣子)
科研費 若手研究B 「湖沼における菌類の生態および難分解性有機物の分解に果たす役割の解明」(代表 鏡味麻衣子)
科研費 基盤研究B、国際共同研究加速基金(国際共同研究強化)「湖沼および海洋におけるツボカビの多様性と機能評価:検出方法の開発と物質流の定量化」平成25-27年度, 平成27-29年度(代表 鏡味麻衣子)
植物プランクトンと菌類の多様な宿主寄生者関係
植物プランクトには、ウィルスやバクテリア(細菌類)、菌類、原生生物など様々な生物が寄生します。なかでもツボカビ門に属する菌類は湖沼生態系において重要である事が明らかになりつつあります。
菌類は形態的特徴が乏しく、またDNAの登録データ不足のため、観察またはDNA解析だけでは種名や機能を特定することは困難です。我々は観察とDNA解析が同時に可能なSingle Spore PCR法を開発し、琵琶湖や印旛沼など適用した結果、ツボカビだけでなく多様な菌類が複数の植物プランクトンに寄生していることを世界で初めて明らかにしました。
Single Spore PCR法の概略図
湖水から宿主ー菌類ペアを直接ピックアップし、植物プランクトンと菌類両方の遺伝子型を同時に解析する。
印旛沼で珪藻Aulacoseiraに寄生する菌類は、新規系統のツボカビにくわえ、近年新たに提唱された祖先的菌類(クリプト菌門(Cryptomycota)やアフェリダ(Aphelida))がいることがわかってきました(下図)。海洋においても、2014年に初めて植物プランクトン(渦鞭毛藻Alexandrium)に寄生する菌類が発見されています(Lepelletier et al. 2014)。水圏にはまだまだ植物プランクトンに寄生する多様な菌類が存在しうる可能性が高いです。「見れば見るほど見えてくる」新種どころか親属、新門の菌類が続々と見つかっています。
主な参考文献・研究資金
科研費 基盤研究B「植物プランクトンと多様な菌類の寄生関係:変動環境下における感染症動態の解明」平成28-31年度(代表 鏡味麻衣子)
科研費 基盤研究B、国際共同研究加速基金(国際共同研究強化)「湖沼および海洋におけるツボカビの多様性と機能評価:検出方法の開発と物質流の定量化」平成25-27年度, 平成27-29年度(代表 鏡味麻衣子)
水草の大繁茂
印旛沼をはじめ、日本の多くの湖沼において、アオコにかわり水草のヒシ、オニビシが増加する現象が見られています。ヒシは浮葉植物で水面に葉を広げるため、大量に繁茂すると水中の光量や酸素量を減少させ、他の生物にマイナスの影響を与える可能性があります。一方、ヒシは昆虫や魚、鳥など多くの動物に利用されている可能性もあります。当研究室では、印旛沼と諏訪湖を舞台に、オニビシが水質(酸素や栄養塩濃度)、生物(プランクトン、昆虫、魚、鳥)に与える影響を明らかにすることに取り組んでいます。
主な参考文献・研究資金
赤堀ほか (2015) 印旛沼において浮葉植物オニビシの繁茂が水質に与える影響 日本陸水学雑誌 77: 189-200.
河川整備基金 「高密度なオニビシ群落の機能評価:適切な植生管理に向けて」平成23年度(代表 鏡味麻衣子)
基盤研究B 「生物多様性と生態系機能への影響を考慮した湖沼沿岸植生管理に関する研究 平成25-28年度 (代表 西廣淳、分担 鏡味)
ミジンコ占い
プランクトンなどを題材とし、生物多様性や生態系への理解を深めるための教育教材作りも行っています。印旛沼のミジンコの種組成を調べ、「生物多様性」を理解するための教材として「ミジンコ占い」を作りました(2012年度鈴木萌里卒業論文)。あなたは何ミジンコ?
ときめく微生物図鑑 鏡味麻衣子(監修)、塩野正道(写真)、塩野暁子(写真)2016年8月 (共立出版)
平成22年度 東邦大学奨励研究 「ミジンコを用いた環境教育プログラムの開発」